Vol.32 ~“若返り”図る「百貨店美術」~

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2012年11月に全面開業した阪急百貨店梅田本店の9階に新設された「阪急うめだギャラリー」のこけら落としとして、12月9日まで開かれた名和晃平ナワ コウヘイさん(1975年生まれ)の個展が注目を集めました。

名和晃平さんは海外でも高い評価を受ける現代彫刻家で、彫刻と言ってもブロンズや木彫りではなく、3次元デジタル技術で樹脂などを形成した作品で知られています。来場者は美大生や、アーティストら、若者が目立ちました。

今回、こけら落としに現代美術というのは・・・・・議論を呼んだと、阪急阪神百貨店マーケティング室長の橋本裕一さんは打ち明けています。これまで百貨店が取り上げる美術家といえば、平山郁夫ら日本画壇やルノワールら印象派など、客層の中心である中高年女性の間で人気の作家が中心でした。しかし「百貨店には一部の人だけが知る最高、最先端ののものを、より多くの人に広める機能が求められる。」と名和晃平展の開催にOKがでました。

日本で美術が普及する上で、百貨店は大きな貢献をしてきました。展覧会を開き明治末から百貨店に置かれた「美術部」は作品の流通も担い、作家の発掘、育成の機能も果たしてきました。しかし、バブルが訪れ美術品は鑑賞として楽しむという本来の目的を離れ、資産として購入する人も出てきました。バブル崩壊と共にこうした風潮は収束したものの、その間に美術品の購買層は限定されるようになりました。

高島屋大阪店では美術画廊の売上の約7割を60歳以上が占めているといいます。高島屋美術部担当次長の津田廣行さんは、経済状況が厳しい現在、年齢を重ねてゆとりが出てきた層が美術品を買われる傾向はこれからも続いてゆくと思いますが、それでは将来の展望が描けない。「若い人に本質的な価値を持つ作品を手ごろな価格で提供し、共に成長しなければ」と話しています。

高島屋大阪店の「ギャラリーNEXT(ネクス)ト」では15日まで「Shobu-Ourworks」展を開催していました。障害のある人が創作活動をする「工房しょうぶ」(鹿児島市)で制作された縫い物作品の展示です。大きな収益は見込めませんが、津田さんは「新人作家を発掘し、生活の中に美術を取り戻す取り組みの一環」と位置づけています。

これからは、百貨店での美術品の取り扱いに変化が見え始めている証ではないでしょうか。その背景には、若い層の顧客をという思いもうかがえますが。百貨店という生活に身近な場所で、若手の美術科の作品が展覧される機会が増える事は良い傾向ではないでしょうか。

~名和晃平(ナワ コウヘイ)~1975年 大阪に生まれる。
1998年 京都市立芸術大学美術学部美術科彫刻専攻卒業。
2000年 京都市立芸術大学大学院美術研究科彫刻専攻修了。
2003年 京都市立芸術大学大学院美術研究科博士(後期)課程彫刻専攻修了 博士号(美術)取得。
2004年 咲くやこの花賞「美術部門」受賞。(大阪市が大阪から世界に文化人を発信し、また大阪文化の振興・発展を目指すために設けている)
2005年 アジアン・カルチュラル・カウンシルの助成によりニューヨークに半年間滞在。       京都市芸術文化特別奨励者。
2006年 ダイムラー・クライスラー・ファウンデーション・イン・ジャパンによる文化芸術支援活動プログラム「アートスコープ」に参加。       ベルリンに3ヶ月間滞在。
2007年 京都府文化賞 奨励賞受賞。翌年、六本木クロッシング2007(森美術館) 特別賞受賞。
2011年 史上最年少の作家として東京都現代美術館で個展開催。「名和晃平ーシンセシス(2011年6月11日~8月28日)

作品を発表して以来、国内外で最も注目すべき若手現代アーティストの1人です。物の本質というテーマを元に、ガラスビーズや発泡ウレタン、グルーシリコンオイルなどの様々な素材を用いた作品は、哲学的な問いかけを持って見る人に新しい視覚体験を与え続けています。

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