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Vol・17  〜ミロの作品として過去最高額で落札〜
当地の19日のサザビーズのオークションで、スペインの画家ジョアン・ミロ(1893−1983)の絵画「青い星」が2356万1250ポンド(約29億2000万円)で落札されました。
ミロの作品としては過去最高の落札価格です。
1927年に描かれたこの作品は、1000−1500万ポンドの値が付くと予想されていましたが、2007年のオークションでの落札値の3倍近い高値で落札されました。
電話による応札者が、他の3人を抑えて落札しました。


ミロの作品は、星や鳥、人間などを暗号化し、大胆なフォルムや丸みのある円と線などで表現し、原色を基調にした明るい作品が有名です。
この作品もその1つでしょう。
個人的にミロの作品は好きですが、このシンプルな作品に29億の値がついたのには驚きました。
もう、ミロの作品が生み出される事はありません。彼の限られた作品の1つだと思うとそのくらいの価値があるのでしょうか。

ミロは、自分自身が「画家である」といったことにはあまり拘らず、幅広い分野に眼を向け、同じシュルレアリスムでもマグリット(1898−1967)やダリ(1904−1989)らの
古典的・写実的描写とは全く異なる自由奔放で、独自の世界を築き上げています。
作家のヘミングウェイ(1899−1961)や、ヘンリー・ミラー(1891−1980)とも交流があったといわれています。

そんなミロに多大な影響を与えたのがパウル・クレー(1879−1940)です。
ミロは「クレーと出会った事は、私の一生で最も重要な出来事だ。彼から影響を受ける事によって、私の絵はあらゆる地上の束縛から自由になった。
パウル・クレーは私に、1つの斑点、1つの渦巻、一個の点でも絵画の主題になりうる事を教えてくれたんだ。顔や風景やモニュメントと同じ様に・・・」と言っています。


Vol・18  〜DOLL EXPO 2012 大人形博〜
創作人形の多彩な美しさを紹介する「DOLL EXPO 2012 大人形博」が東京のグランドプリンセスホテル新高輪で8月4日より開催されます。
今年が初めての開催で、一般公募作品や、日本を代表する人形作家の新作、代表作品など、他にも古今東西の様々な人形の歴史と文化を紹介する、例のない
大規模な博覧会です。
展示される人形は、約700体とかなり見どころのある催しになります。

一般公募は、才能ある新しい作家を発掘という気持ちから公募し、全国から559点の作品が寄せられました。
その中から審査員5人により選ばれた200点が展示されます。

大賞に選ばれたのは、埼玉県の主婦、中村弥痲紀 さんの磁器人形「ココア」。
自由にポーズを取らせる事が出来るのが特徴ながら、審査員が評価したのは美しくもありはかなさも感じとれる繊細な顔の表情でした。

他にも、伝統的な西洋人形の様なものから現代的なロボット風の人形など多彩な作品が揃っているので、お気に入りの作品に出会えると思います。


特別出品作家として、人間国宝の秋山信子さん、与勇輝さん、奥田小由女さん、友永詔三さん、林駒夫さん、吉田良さんが参加するのも見どころの1つです。

この他、現在活躍中の人気作家の作品や「広がる人形ワールド」には発売開始時からの歴代のリカちゃん人形や、生誕110周年を迎えるテディベアなども並んでいます。


人間国宝の作品から人気キャラクターのフィギュアまで一度に鑑賞できる機会は滅多に無いので、人形好きな人もそうでない人も楽しめるのではないでしょうか。



名称:DOLL EXPO 2012 大人形博
会期:2012年8月4日(土)〜8月27日(月)  *会期中無休
時間:10:00〜17:00 (最終入場は閉場の30分前)
会場:グランドプリンスホテル新高輪 大宴会場 飛天  (東京都港区高輪3−13−1)


Vol・19  〜夏の風物詩花火の絵画〜
毎日暑い日が続く日本列島、全国各地で花火大会が開催されています。

花火の絵画といって頭に浮かぶのは、山下清(1922−1971)の「長岡の花火」である。
日本の三大花火の1つである長岡の花火は、空襲を受けた二年後に戦災復興と平和への祈りを込めて挙げたのが始まりだそうです。





山下清「長岡の花火」


昭和24年の夏、山下清28歳の時に花火が好きだった彼は、長岡へ日本一の花火を見に行きました。
そして、その翌年に彼の脳裏に焼き付けられた記憶からあの素晴しい作品が誕生するのです。
夏の夜空に打ちあがる大輪の花火、川面に映し出された光、花火を見ている何人もの人達。それらをとても細かく表現しているのが
すべて貼り絵である事に驚きます。


山下清は、テレビドラマの「裸の大将放浪紀」でも有名になりました。テレビでは放浪先で絵を描いているシーンが多いですが、実際は
旅先から戻って描いていました。数年間放浪した後にも、脳裏に焼き付けた風景を彼独自の感性で再現したのです。


残念な事に、彼の作品は制作から年月が経っている事、使用していた色紙や画材が粗悪品であった事(物資に恵まれていなかったため)
展覧会等により作品を照らす照明などで褪色、劣化が進んでしまっています。
そこで、2002年に生誕80周年を機に「修復プロジェクト」を立ち上げ、作品の修復を岩井希久子さんに依頼し2010年9月の時点で「長岡の花火」を含む
8点の修復作業を終えています。

今年は生誕90周年にあたり、現在は福井市美術館にて「生誕90周年 山下 清展」が開催され、「長岡の花火」も展示されています。


*岩井希久子(1955−    )
熊本県生まれ。絵画修復家。

ナショナル・ギャラリー(ロンドン)、大英博物館、ナショナル マリタイム ミュージアムなどで修復技術を学び絵画修復家となる。
山下清「長岡の花火」の他、ピカソの「肘掛け椅子に座る女」、ゴッホの「ひまわり」、モネの「睡蓮」なども手掛けている。



Vol・20  第18回 秘蔵の名品アートコレクション展
18回目を迎えたこの展覧会は「東京美術学校から東京藝術大学へ 日本画家の巨匠たち」と題し、東京美術学校の歴代教員と卒業生の中から45名を
選抜し、画家として最初期から円熟期までの84点にのぼる秀作を集めました。


横山大観(1868−1958)の 「村童観猿翁」 は、東京美術学校の最初の卒業制作として明治26年に描かれた作品です。(東京藝術大学所蔵)
この作品は、牛の上の猿を中心に翁と子供達が描かれていて、この猿回しの爺は恩師橋本先生(橋本雅邦 明治期の日本画家)に見立て、子供達は
同期の11人の幼顔を想像して描いたのだそうです。細部までとても丁寧に描かれていて微笑ましい作品です。
この作品の隣には巨匠となった大観の代表作「富士」が飾られており、若かりし頃の作品と画家として成熟した晩年の作品を比べられるのも
楽しみの一つです。


今回の展覧会のもう1つの見どころは、東京藝術大学の卒業制作で描かれた自画像です。
岡倉天心(1863−1913)が東京美術学校を創始してから、卒業制作の収集が行われていましたが、明治29年に西洋画科が新設され西洋画科の
黒田清輝(1866−1924)、久米桂一郎(1866−1934)らが自画像を卒業時に描かせて収蔵するという方針を打ち立てました。現在では西洋画科
(現在の油画専攻)以外の科でも導入され、5000件を上回る一大コレクションとなりました。
画家の若き日の作品を記録したこのコレクションはとても貴重なものです。
その中で今回は最初の自画像の白瀧幾之助(1873−1960)をはじめ、勅使河原宏(1927−2001)まで13人の作品が展示されました。


現在のイメージとは筆致が異なる作家もいたり、作風の変遷を思い起こさせる作家がいたり、とても興味深く作品を鑑賞することが出来ました。
そして、日本画家の作品の細やかさ、素晴しさを再認識する事が出来ました。

Vol・21  野田弘志のリアリズム絵画が伝えるもの
リアリズム絵画とはものが存在する事の全てを二次元の世界に描きとろうとするあり方であり、描かれる如何なる人、物、空間の存在そのものを
描く事だという。

「誇張された表現とか甘い表現とか自己流の味付けをしないで、ひたすら現実を直視することによって、そこに物があってそれを包む空間があること自体に
厳粛なものを感じる事が出来るはずです。」*注1 と野田氏は語っている。
日常生活の現実感が、ネット、映画、ゲーム機器など、仮想的な現実感と頻繁に接触するようになり、存在する物と架空、仮想の物と区別がつきにくくなっている。
しかし仮想の「物」は物ではなく、仮想の「生命」は生命ではないと野田氏は警鐘をならす。

「私たちの存在のよりどころとするものが、もはやこの現実には無いという事態です。」*注2


野田氏のモチーフに骨がある。
骨は死の象徴だ。
生きているものには必ず死が訪れる。それは生命の現実であり、真実である。
骨はその「死すべき運命」である生命の象徴であるものだ。


日本人はとかく死を避けようとする。特に今の時代はネガティブなものがよりポジティブなものを求める傾向にある。
表面的で綺麗なものを求める。毎日流れてくるニュースを見ても、視聴者が求めるものを流してはまた次が流れていく。

しかし、生きている限り必ず死が訪れる。その現実にどれだけ向き合う事が出来るだろう?
どれだけ死に向かい、どれだけ生に向き合って生きる事が出来るだろう。

人が、物が、そこにあるという「存在」する事の力強さ。
それを描く事によってそれが生を、生命を力強く生きる事を野田弘志の作品は教えてくれている。


参考文献『リアリズム絵画入門』 野田弘志著 芸術新聞社 ( *注1 P56より   *注2 P144より)